我らがチェチーリア:ロッシーニ《オテロ》@ザルツブルグ祝祭大劇場 2014.6.9
ロッシーニの歌劇《オテロ》は恥ずかしながら、今までまったく知りませんでした。歌劇《オテロ》と言えば、ヴェルディしか知らず、今回の公演も最初、ヴェルディと誤認して戸惑ったほどです。今回のザルツブルグ精霊降臨音楽祭の公演はチューリッヒ歌劇場との共同制作(シャンゼリゼ劇場とも)で、そのチューリッヒ歌劇場のヴィデオを見て、今日の公演のチケットを購入することを決断しました。キャストもカマレーナが出ないこと以外はすべて同じ。オーケストラだけは異なりますが、同じ演出の同じ舞台装置です。
生で聴くとますます魅力にあふれたオペラです。今までヴェルディの陰に隠れていたことが信じられません。ヴェルディのものとはかなり、あらすじが違っていますが、柳の歌から後のフィナーレまでの盛り上がり方は同様です。特にチェチーリアの歌う柳の歌は最高に素晴らしいものでした。この1曲を聴くだけでもこのオペラを聴く価値がありました。
今日のキャストは以下です。
指揮:ジャン=クリストフ・スピノジ
演出:パトリス・コーリエ&モッシュ・ライザー
管弦楽:アンサンブル・マテウス
オテロ: ジョン・オズボーン
デズデモナ: チェチーリア・バルトリ
ロドリーゴ: エドガルド・ロッカ
イアーゴ: バリー・バンクス
エルミーロ: ペーター・カルマン
エミーリア: リリアナ・ニキテアヌ
ドージェ: ニコラ・パミオ
まず、今回の演出ですが、カラフルな演出で知られるパトリス・コーリエ&モッシュ・ライザーがあえて、シェークスピアの劇作を意識したのか、落ち着いたトーンの舞台で堅実とも言える演出。黒を基調に悲劇性を強調したんでしょうか。もっともソファや椅子はカラフルだったようなので、中庸を狙ったとも言えます。もちろん、ザルツブルグですから、ヴェネチアらしさは抑えて、現代風の装いになっています。まあ、シンプルで簡素な舞台でした。評価としては可もなく不可もないという感じです。
一方、音楽面では、スピノジも遊びの少ない厳格な演奏。舞台の動きと同期をとった演奏は《チェネレントラ》同様ですが、それほど明確なものではありません。2回目の《チェネレントラ》でブーイングも出たそうですから、少し、抑え気味の指揮だったかもしれません。《チェネレントラ》のときのような楽しそうな雰囲気の指揮とはかけ離れていました。
歌手はチューリッヒ歌劇場以来、ずっとほとんど同じメンバーで安定しています。中でもチェチーリアの存在感は抜群ですが、オテロ役のジョン・オズボーン、ロドリーゴ役のエドガルド・ロッカは素晴らしい歌唱。イアーゴ役のバリー・バンクスは見栄えはともかく、なかなか好演。ベテランのリリアナ・ニキテアヌも美しい歌唱で脇役としての役割をしっかりと果たします。エルミーロ役のペーター・カルマンはこのオペラの主役級では唯一のバリトンで渋く深い響きで重唱を支えていました。そうです。このオペラは珍しく、主役級のオテロ、ロドリーゴ、イアーゴの3人は強い響きのテノールです。このテノール3人の出来がオペラの成否を握っています。激しく戦いあうテノール歌手たちの素晴らしい歌唱で舞台は盛り上がりました。
そして、最後はチェチーリアの綿々たる柳の歌とそれに続くオズボーンとの緊張感の高い歌の掛け合いで最高の盛り上がり。デズデモナが殺されるシーンは衝撃的でもありますが、カルメン同様、死を覚悟した女性の強さが表現されます。
それにしても、チェチーリアのアジリタの見事さはこのオペラでも遺憾なく発揮されました。その素晴らしさは讃えようがないほどです。
こう書いてきて、ふと、こういう悲劇性の高いオペラのしては、強い感動がなかったことに思い当りました。素晴らしい歌唱に感銘はありましたけどね。ヴェルディの《オテロ》に比べると、ロッシーニはあえてシリアスさを少し抑えたのかもしれません。どちらがいいとも悪いとも言えませんが、それが作曲家の個性なんでしょうね。
幕引き後のカーテンコールは音楽祭のフィナーレを讃える聴衆の歓呼の嵐。チェチーリアはまだ48歳。これからは彼女の時代が続くことになる強い予感が脳裏を駆け巡りました。ビヴァ! チェチーリア!
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