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ラインの旅:スイス編~珠玉のコレクション、その1@バーゼル市立美術館

2013年4月16日火曜日@スイス・チューリッヒ~ヴィンタートゥール~バーゼル/5回目

バーゼル市立美術館は、ヨーロッパ最古の公立美術館です。その歴史は1671年まで遡ります。バーゼルの富豪アマーバッハ家のコレクションをバーゼル市が購入したのがその始まりです。その後、第2次世界大戦中に市民の募金などでナチスから、ココシュカの《風の花嫁》を救い出すために購入しました。バーゼル市立美術館には、この《風の花嫁》以外にも、ナチスの退廃芸術から救い出した名画の数々があり、こんな見応えのある美術館はそうはありません。クレー、ミロなど、挙げたら、きりがありません。
今回から、そのバーゼル市立美術館の素晴らしいコレクションの数々をご紹介します。

まず、パウル・クレーです。ベルンでも素晴らしいクレーの名画を鑑賞しましたが、この美術館にも、クレーの名作があります。

《豊かな港(Rich Harbour)》です。1938年、クレー、59歳の作品です。ナチスの弾圧を受け、スイスに亡命後に描いたものです。ともかく、色彩、黒いライン、構図、すべてが圧倒的に素晴らしいです。


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《R荘(Villa R.)》です。1919年、クレー、40歳の作品です。クレーが第1次世界対戦に従軍し、除隊した後に描いたものです。この絵もナチスの退廃芸術から救い出された絵画のひとつです。円形の太陽と半円形の月、直線の建物と曲線の道という対立するものを描いています。しかし、それが緊張感を生むわけではなく、落ち着きのある雰囲気であることに驚かされます。大きく描かれたRの文字は特に意味はなく、構図の一部だそうです。


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次はホアン・ミロです。

《コンポジション》です。1925年、ミロ、32歳の作品です。ミロの作品の基本的な要素である点、線、平面が描かれています。構図も素晴らしいですが、色合いの美しさに感銘を受けます。


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次はフェルナン・レジェです。

《青色の中の女(Woman in Blue)》です。1912年、レジェ、31歳の作品です。レジェの作品のなかでも、抽象度の高い作品です。一目ではレジェの作品とは分かりません。


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《階段(The Staircase)》です。1914年、レジェ、33歳の作品です。これも結構、抽象度の高い作品です。


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《母と子(Mother and Child)》です。1922年、レジェ、41歳の作品です。これはレジェらしい、素晴らしい絵です。抽象と具象のほどよいバランス、そして、無表情の顔、すべてがレジェの特徴を示しており、構図と色彩が素晴らしいです。


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次はジョルジュ・ブラックです。

《風景(Landscape)》です。1908年、ブラック、26歳の作品です。この手の作品はピカソと切磋琢磨したものなのでしょう。saraiには、なかなか、ピカソの作品との判別が付きません。抑えた色彩と高度な抽象が心地よい作品です。


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《ヴァイオリンとピッチャー(Violin and Pitcher)》です。1909年~1910年、ブラック、27歳頃の作品です。これは傑作です。色調といい、ほどよい抽象感といい、素晴らしいです。ピカソに優るとも劣らないと言えます。


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次はシャイム・スーティンです。エコール・ド・パリの画家の一人です。

《ヴァイオリン、パンと魚のある静物(Still-life with Violin, Bread and Fish)》です。1922年、スーティン、29歳の作品です。さりげない静物画ですが、しっかりとスーティンの特徴が出ています。それにしても、ブラックと同じヴァイオリンを描いても、こんなに違いがあります。抽象、具象の違いよりも、対象の捉え方の違いが大きいと思います。


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次はエドヴァルド・ムンクです。

《Aasgaardstrandの田舎道(Country Road in Aasgaardstrand)》です。1901年、ムンク、38歳の作品です。これもムンクの特徴の出た絵です。手前に大きく、明瞭に描かれた少女と幾分、デフォルメされた背景の対照が見事です。画家の深層心理の中を覗き見ている感覚に陥ります。


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次はエゴン・シーレです。saraiお気に入りの画家ですが、ここにも1枚ありました。

《エーリッヒ・レーデラーの肖像(Portrait of Erich Lederer)》です。1912年~1913年、シーレ、22歳頃の作品です。エーリッヒ・レーデラーは、クリムトのパトロンであったレーデラー家の息子。レーデラー家は豪壮なウィーンの邸宅のほかにハンガリーのジェールにお酒の工場を持っていました。シーレは1912年のクリスマスから新年までをそのジェールで過ごしました。エーリッヒ・レーデラーは15歳の少年でしたが、その年齢にも関わらず、シーレの偉大な才能を見抜き、熱狂的なシーレのコレクターになったそうです。早熟の天才シーレとそのシーレの早熟なコレクターの組み合わせがこの絵画に結実したようです。少年の顔の表情が何とも素晴らしいではありませんか。


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次はマルク・シャガールです。

《牛売り(The Cattle-dealer)》です。1912年、シャガール、25歳の作品です。パリに出てきたシャガールは、前衛的な絵画を描き始めますが、絵の題材として、故郷をよく描きました。この絵はロシアの昔話を題材に、富裕な農民と貧しい農婦の姿を描いています。背景の黒、そして、赤い色調が印象的です。


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《黒と白のユダヤ人(Jew in Black. and White.)》です。1914年、シャガール、27歳の作品です。絵のタイトルの通り、黒と白の対比できりりと引き締まった画面構成です。


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次はアレクセイ・フォン・ヤウレンスキーです。青騎士の一人ですね。

《自画像(Self-portrait)》です。1911年、ヤウレンスキー、47歳の作品です。ベルンのクレーセンターでの《ヤウレンスキーとクレー》展で大量の作品を見たばかりです。そこでも、このような肖像画が一番、光彩を放っていました。この絵もヤウレンスキーらしい、いい絵です。


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次はエミール・ノルデです。ドイツ表現主義に近い作風ですが、どのグループにも属さず、独自の道を歩みました。

《フィギアとマスク(Figure and Mask)》です。1911年、ノルデ、44歳の作品です。これは人形と仮面を描いた静物画ですが、とてもそうは見えない、奇怪な絵画です。やはり、表現主義の作品と思えます。ちなみにノルデ自身は早期からのナチ党員でしたが、こういう作品を描いていたので、退廃芸術として、槍玉にあげられました。


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次はフランツ・マルクです。配偶者のお気に入りの画家。青騎士の代表選手でもあります。ミュンヘン時代のクレーの親友だった人です。

《冬のバイソン(Bison in Winter)》です。1913年、マルク、33歳の作品です。マルクらしく、自然と動物を描いています。白い雪を背景に赤いバイソンが印象的です。曲線と直線でデフォルメして描かれた山や樹木の抽象感が青騎士らしさを思い起こさせます。


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《動物の宿命(Fate of the Animals)》です。1913年、マルク、33歳の作品です。縦195センチ、横263センチの大作です。動物たちの死すべき運命を通して、戦争の残酷さを訴えているようです。そして、この絵を描いた3年後、この絵の通り、マルク自身が戦場で最期を迎えることになります。また、この絵も、マルクの死後、倉庫火災でダメージを受けます。特に絵の右側の部分は今でも損傷していることが分かります。しかし、焼け残った断片を集めて、クレーが親友の名画を見事に修復・再構成しました。写真などを参考にした大変な作業だったようです。クレーは戦争に倒れた親友マルクの死に大変、ショックを受けていたそうですから、この作品の再生にかける気持ちはとても強かったのでしょう。そして、この絵はさらに試練のときを迎えます。クレーの作品と同様に、ナチスから退廃芸術の烙印を押されます。この作品を救ったのがバーゼル市民です。そして、今、ここに安住の地を見出しています。《風の花嫁》と同様にバーゼル市民に救出された名画です。本当にバーゼル市民には、頭が下がります。
ピカソの《ゲルニカ》同様、戦争の悲惨さ・残酷さを体現した名画、しかもそれ自身が生き物のような名画です。マルクの精神に合掌!!


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バーゼル市立美術館の名画コレクションはまだまだ続きます。



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