ホフマン物語@マドリッド・レアル劇場 2014.5.28
今回の上演はレアル劇場版とのことですが、基本的にエーザー版をもとにした5幕物です。エピローグ、第1幕《オランピア》、第2幕《アントニア》、第3幕《ジュリエッタ》、エピローグの順で、第1幕の後、第2幕の後に25分ずつの休憩が入ります。必然的に長くなり、全体は休憩を入れて、4時間を超えます。
ある意味、演出上も下世話的にな興味も集中するのは最初の休憩前までになります。設定が居酒屋ではなく、美術学校になっています。舞台のバックで画家たちのデッサンが行われ、そのデッサンのモデルとして、入れ代り、立ち代り、美しく若い女性が文字通り、フルヌードで美しい肢体を見せます。最初はその姿は後ろ向きですが、2番目の女性からは前向きに立ちます。これは日本では上演不能でしょう。また、舞台の一番前には、最初は動かないので彫像かと思いましたが、裸身を白く塗った女性が横たわっています。つまり、舞台の前面と後面に2人のヌードの女性がずっと存在している中でオペラが進行します。フォン・オッターの美しい歌声にうっとりしながらも、目線はヌードの女性に向いてしまい、どうしても散漫になってしまいます。まあ、いいような、悪いようなというところです。そう言えば、このオペラ自体も芸術の美の世界と魔的な悪の世界の対立構造を主題としていることを想起します。すべて、2面的な世界。それをどう克服していくか・・・これは西洋文化の一つの潮流ですね。ヘーゲルは止揚:アウフヘーベンということで一つの答えを出しましたが、それは哲学や政治の世界の話。芸術となるとそうは簡単には事が片付きません。唐突ですが、画家のカラヴァッジョのことを想起します。彼も深遠な美術と現世的な暴力の2極の間でせめぎ合って、それが昇華したのが彼の芸術の根源だったでしょう。悪、魔、暴力という負の世界は芸術上は美を追求する上で切り捨てられないものでもあります。このホフマン物語も明らかにそういったファウスト的な世界を描いています。そうすると、演出上、こんなにヌードを多用したのは、芸術上の多面性を示すためとも考えられます。そもそも芸術は現実にはありえないような様々な美を追求するという大目的がありますが、人間が作り出すものである以上、現実世界からのリンクも必要です。その一つが女性のヌードではないでしょうか。フォン・オッターが歌うミューズは形而上の美の世界、現実世界の女性ヌードは形而下の美と言ったら言い過ぎかもしれませんが、芸術は最終的に形而上の美の世界を目指すというのがこのホフマン物語の演出のテーマではないかと思った次第です。事実、女性ヌードは最初の休憩までで、第2幕以降は一切、登場しないというのは、演出がその方向性を指し示すためだと思ってしまうわけです。ある意味、最初はどぎつく始まった、このオペラもそういう方向性を示すものだとすれば、納得性もあるかもしれません。
こういう演出を可能にするためには、ミューズ役がとても重要になります。あえて、フォン・オッターを起用したのは、彼女の歌唱がミューズ的な天上の世界の響きを持つからにほかならないでしょう。実際、このオペラはフォン・オッターの美しい歌で始まり、しみじみとした歌で幕を閉じます。また、ミューズ役はニクラウスに扮するために最初と最後以外はズボン姿になるのが通例ですが、フォン・オッターはズボンを履こうとして、止めてしまい、結局、スカート姿で通します。これはミューズとしての意味合いを強めるための演出なんでしょう。しかし、姿・形がどうであれ、フォン・オッターの抒情性を極め尽くす歌唱の見事さと言ったら、もう、うっとりどころの話ではありません。マーラー、コルンゴルトを歌う彼女の素晴らしさは今更述べるものではありませんが、同様な美がここでも開花していました。しみじみと抒情性のある歌唱では、メゾソプラノで最強と言ってもいいでしょう。今回の旅はメゾソプラノを聴く旅でもあります。この後、チェチーリア・バルトリ、そして、ガランチャを聴いて、現在のメゾ3強が聴ける筈でした。既にガランチャがキャンセルしたために一角は崩れましたが、フォン・オッターとバルトリがそれを埋めてくれることでしょう。
あまり、オペラ全体の感想にはなりませんが、これがsaraiの偏った見方・聴き方です。ご容赦ください。そうそう、肝心のタイトルロールを歌ったエリック・カトラー、全くの初聴きでしたが、彼も見事な歌唱でした。
今日のキャストは以下です。
指揮:ティル・ドレマン
演出:クリストフ・マルターラー
管弦楽:レアル劇場管弦楽団
ホフマン: エリック・カトラー
ニクラウス/ミューズ: アンネ・ゾフィー・フォン・オッター
リンドルフ/コッペリウス/ミラクル博士/ダペルトゥット: ヴィト・プリアンテ
ステッラ: アルテア・ガリッド
オランピア: アナ・ドゥルロフスキ
アントニア/ジュリエッタ: ミーシャ・ブリューゲルゴスマン
今回のヨーロッパ遠征の最初のオペラですが、本当にフォン・オッターを聴けて良かった! 幸先よいスタートです。
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